Miku-nical「みくにかる」

イオルコス国王アイソーンは異父兄弟のぺリアスに謀られて王位を追われてしまいました。ぺリアスはアイソーンが高齢なのをいい事に、その子イアソンが成人するまでの間、自分が後見となって政治を執り行うとの布告を行いましたが、その言葉を疑ったイアソンの母は、息子をケンタウロス族のケイローンに預ける事たのでした。
ケイローンは、音楽や弓術、医術に秀でており多くの若者を育てた賢者です。そのケイローンのもと、イアソンは多くの技を身につけるとともに多くの勇士達との親交を深めたのでした。やがて、成人となったイアソンは、「イオルコスに戻り、父のものである王位をぺリアスから譲り受けよ」との神託を受け、故郷のイオルコスへと戻るのでした。
イオルコスに戻る途中、とある川のほとりでひとりの老婆が渡るに渡れずに困っているのを見かけたイアソンは、彼女を背負って渡りはじめました。しかし、川の中程に来た時、背中の老婆がおそろしい重さで彼にのしかかってきました。サンダルの片方を流されながらも頑張って反対側の岸にたどり着くと、老婆の姿はあっという間にかき消えたのです。老婆とは仮の姿、実は大神ゼウスの妃ヘラだったのです。ヘラは、この若者イアソンを試したのでした。こうして、イアソンはその後女神ヘラの加護を受ける事となるのでした。
やがてイアソンはイオルコスのぺリアスのもとを訪ねます。イアソンを見た瞬間、ぺリアスはその片足にサンダルがないのを見て顔色を変えました。それもその筈、ぺリアスは、「王位はいつか、片足だけサンダルをはいた若者に奪われよう」という神託を受けていたのでした。
それを恐れたぺリアスは、イアソンに難題を与えてそれを成し遂げたならば王位を譲ろうと言い渡しました。それは、ぺリアスの従兄プリクソスの霊を弔う為に、コルキスの国へ行き、金羊の皮を取り戻して来いというのでした。

イアソンは、難題を引き受けるとともに同志を集めました。船の建設には、名高い船大工アルゴスが、アテナ女神の加護の下にこれを成し遂げました。船のへさきには、アテナ女神がドードーネの森から切り出した人語を話す不思議な樫が取り付けられ、船の名はアルゴと名づけられました。
アルゴ船に乗り込んだのは50名の勇士で、楽人オルフェウスの竪琴の調べにのって進水しました。舵を取るのはティーピュス、見張りをするのは千里眼のリュンケウス。その他にも英雄ヘラクレスや医術にすぐれたアスクレピオス、トロイア戦争の英雄アキレウスの父ペーレウス、カストルとポルックスの兄弟などがのりこんでいました。

出航したアルゴ船は、しばらくの間順調に航海を進め、やがてレムノス島にたどり着きました。そこは男がひとりもいずに、トアースの娘ヒュプシピュレが女王となっている女だけの島でした。島に着いた一行は大歓迎を受け、ついつい島に長居をしてしまいますが、ようやく島に別れを告げて旅を進めるのでした。
レムノス島を出ると、ヘレスポントス海峡を越え、やがてキオスの到着しました。そこで、ヘラクレスの連れていた少年ヒュラースがニンフにさらわれてしまい、それを追っていったヘラクレスがここで一行と別れる事となります。
また、ビテューニアでは、ポセイドンの子で国王のアミュコスが一行を迎えました。アミュコスはあらゆる旅人に対して自分との拳闘の試合を強要し、敗れた相手を奴隷とするかはたまた殺してしまっていたのでした。当然、これまでアミュコスは敗れた事がありません。一行に対しても同様に拳闘の試合を強要してきました。それを受けたのが、ポルックスです。拳闘においては敵なしというポルックスの前ではさしものアミュコスもなすすべありません。あっという間にアミュコスを倒してしまうのでした。
船は、ポスポロス海峡を目指して進みます。
黒海の口に近いとある岸では、アゲノールの子ピーネウスに出会いました。ピーネウスは、アポロン神から予言の力を与えられたものの、その力をむやみに使ったために神々の怒りをかい、両目をつぶされて王座を追われた上に、食事の度に神々がつかわした怪物ハーピーらに苦しめられていたのでした。ピーネウスは、一行が自分を訪れてくる事だけでなく、一行の中のボレアースの子らが助けてくれる事をその予言の力で知っていました。その予言の通り、一行の中のボレアースの子であるゼーテスとカライスはピーネウスの話を聞くととりわけ同情してやさしく慰めました。すると、ピーネウスの目が開き再び見ることが出来るようになったのでした。喜んだピーネウスは一行に対して食事をふるまおうとしたのですが、そこに姿を現したのが、ハーピーでした。散々荒らしまわって去っていくハーピーを先ほどのゼーテスとカライスが追いかけます。ようやくチグリスの川のふもとで一羽のハーピーを捕まると、そこに虹の神イリスが現れ、ゼウスの名においてハーピーらが二度とピーネウスを悩まさない事を約束するのでした。
こうして、予言通りに救われたピーネウスは、あらためて一行をもてなすと共に、これからの行程や難儀、そしてそれらの回避方法などを教えたのでした。
そうして出会った難関の一つが、シュンプレーガデスと呼ばれる二つの大岩でした。この二つの大岩の間を通らなければならないものの、大岩は根元が海底に結び付けられておらず、絶え間なくぶつかり合っていたのです。当然、その間で挟まれてしまっては船などひとたまりもありません。一行はピーネウスに教えられたように一羽の鳩を放ちました。鳩は岩の間を飛んでいきます。鳩が近づくと、岩は音を立ててぶつかりあいましたが、尾羽1枚を波間に残して鳩は無事に通り抜ける事ができました。それを見ると、一行は一気に岩の間に船を進めました。いったん戻りかけていた岩はあわてて再び閉じようとしましたが間に合わず、船は船尾をわずかにひきちぎられたものの、無事に通り抜ける事ができたのでした。振り返ってみると、あまりの激しさでぶつかりあったシュンプレーガデスは二度と動く事がなくなったといいます。

こうした航海の末、コルキスに着いたイアソンはプリクソスの子息をつれて、まずは王アイエテスの屋敷を訪ねます。何とか話し合いで金羊の皮を手に入れようとするのですが、アイエテスはそれに応えず、イアソンらに難題を課して追い払ってしまおうと考え次のように言いました。
「客人達が本当に神々の後裔であり金羊の皮を所望するのならば、私の命を果たしてもらおう。私の厩には軍神アレスの持ち物だった青銅の足を持ち、口から火を吐く牡牛がいる。これをひいて土地を耕し、そこにこの竜の歯を蒔くがよい。それが出来たならば、金羊の皮を渡してやろう。」
それを聞いたイアソンはしばし考えた後にその申し出を受け、王の難題にのぞむ事となるのでした。

難題に悩むイアソンでしたが、そこに救いの手を差し伸べたのが、王女メディアでした。メディアは、王宮で見たイアソンに一目惚れをしてしまったのでした(守護たる女神ヘラの頼みで、愛の女神アフロディテの息子エロスの金の矢が胸に刺さったのでした)。
メディアは、イアソンに対して剣や火で傷つくことがなくなる薬草を与たばかりでなく、竜の歯を蒔くと、そこから兵士が生まれてくる事とその対処法を教えます。イアソンはその薬草の力で炎にも傷つかずに牡牛を御すと、大地を耕す事ができました。また、竜の歯を蒔いて生まれでた兵士達の間に、これまたメディアに教えられた通りに巨石を投げ込む事によって彼らを同士討ちさせ、無事にアイエテスの出した課題をクリアする事ができたのでした。

難題をクリアされてしまったアイエテスでしたが、約束を守る気ははじめからありません。それを知ったメディアは自分を連れて行ってくれるという約束で、イアソンらが金羊の皮を奪うのを手助けしました。金羊の皮がかけられている樫の木を守っている竜をメディアが眠らせている間に、一行はついに金羊の皮を手にいれたのでした。

金羊の皮を手に入れた一行は、意気揚揚と帰途に着きました。
当然、アイエテスは軍勢を送ると、金羊の皮を取り戻そうとするのですが、女神ヘラの送る風に乗ったアルゴー船に追いつく事ができません。しかし、メディアの弟アプシュルトスが率いる大軍がアルゴ船の行く手に待ち受けていました。くまなく逃げ道を塞がれたのを見たアルゴー船の勇士達もさすがに勝ち目がない事をさとり、メディアを引き渡してその場を逃れようとします。ところが、それを聞いたメディアはイアソンらを激しく責めると、恐ろしい計略を授けたのでした。
メディアとイアソンはそれぞれ偽りの使者をアプシュルトスに送ると、おびき寄せて斬り殺してしまったのです。そうして、コルキス軍が動揺している間に囲みを破り、逃れたのでした。

そうして、帰路もいくつかの難関を乗り越え、アルゴ船は無事にイオルコスへと戻り、その大役を終えたのでした。

イオルコスに戻ったイアソンでしたが、国王ぺリアスは約束など忘れたふりをして、王位を譲ろうとはしません。そこで、イアソンとメディアはコリントスの町へ赴くと、ぺリアスを騙す為に喧嘩別れを装います。
そうしてメディアだけが再びイオルコスに戻りました。メディアは、魔法を使いよぼよぼの牡羊を薬を入れた釜に投じます。すると、牡羊は若々しい姿となって釜から出てくるではありませんか。それを見たぺリアスの娘達は、この若返り法を父ぺリアスにも試みてみようとメディアに頼み込んでその手法を聞き出したのでした。ぺリアスの娘達は、その方法に従ってぺリアスを釜に投じたのですが、実はメディアが教えた薬には足りないものがあったのです。その為、あわれぺリアスは煮え死んでしまったのでした。
しかし、このようなひどい復讐をなしたイアソンとメディアもまた、イオルコスに居ることも出来ず、コリントスへといって暮らしました。
その後イアソンは、その地の王クレオンに説き伏せられる形で、メディアと別れるとクレオンの娘グラウケーと結婚します。我国も父兄弟も捨ててまでついてきたイアソンに捨てられてしまった形となったメディアは、思いつめた挙句に毒をもってクレオンらを殺すと、自分とイアソンの間にもうけた二人の子供を刺し殺し、呆然として声すら出ないイアソンを尻目に何処となく飛び去ったのでした。

冬の夜空低くに輝いていたかつての巨大な星座アルゴ船座にまつわる物語です。ギリシャ神話における多くの英雄などが登場しています。